今回は、「ソルフェージュ」と「リトミック」の違いについてです。
ソルフェージュもリトミックも、音楽を学ぶためのトレーニングといった文脈で使われます。
そして、それらはどう違うのか、意外と説明しづらいものです。
そこで、このページでは、ソルフェージュとリトミックはどう違うのか、それぞれが「どのような能力を伸ばしたいか」に着目して明らかにしていきます。
ソルフェージュとリトミックの違いは?
先に結論を述べておくと、ソルフェージュとリトミックの違いは、「どのような能力を育てたいか」にあります。
ソルフェージュは、音を聴き取ったり、楽譜を見てドレミで歌ったりすることによって、音楽の基礎的能力を向上させることを目指すトレーニングです。
これはつまり、ソルフェージュとは、音楽というツールを用いて音楽の能力の向上をめざすものであり、音楽そのものが「目的」であると言えます。
一方で、リトミックとは、音楽と身体的動作を組み合わせることによって、感覚機能の発達を発達させ、ヒューマンスキルを向上させることを目指すトレーニングです。
これはつまり、リトミックの第一義的な目的はヒューマンスキルの向上にあり、音楽はそのための「手段」であるということです。
すなわち、ソルフェージュは音楽によって音楽の能力を伸ばすことを目指しているのに対して、リトミックは音楽によって音楽の力に限らないヒューマンスキルの向上を目指しているのです。
このことを理解するために、ソルフェージュとリトミックとはどのようなものか、それぞれ詳しく見ていきましょう。
ソルフェージュという言葉について
ソルフェージュとは、音を聴き取ったり、楽譜を見てドレミで歌ったりすることによって、音感や読譜能力などの、音楽の基礎能力を総合的に養うトレーニングのことです。
ソルフェージュの具体的な内容としては、まず、「聴音」があります。
聴音とは、演奏された曲を聴きとって音符や休符などの音楽記号を五線に書き起こすトレーニングです。
また、ソルフェージュのもう一つの主要なトレーニングに、「視唱」があります。
視唱とは、楽譜を見ながらドレミファソラシ(=階名)で声に出して歌うことです。
聴音や視唱をすることによって、ドレミファソラシドなどの音を聴き分けたり(音感)、楽譜を見て曲をイメージしたり演奏したり(読譜)する能力を高めることができます。
ソルフェージュは、スポーツでいうランニングや筋トレのようなものです。
たとえば、野球を想像してみてください。ある選手が、素振りなどで綺麗なバッティングフォームだけを身につけました。
ところが、ものすごくキレイなフォームを身につけたのに、筋トレやランニングなどの基礎トレーニングを行っていなかったらどうなるでしょうか?
まず、筋トレをしてしっかりとした体をつくっていなければ、ピッチャーが渾身の力を込めて投げた球の球威に圧されて、球を強く打ち返すことができません。
また、ランニングで下半身を安定させておかないと、9回という長い試合ではガス欠になってしまい、最後まで良いパフォーマンスを持続することができません。
個の野球の例は、音楽でも同じことが言えます。
ピアノやバイオリンなどの実技の能力を練習で高めていくことは、技術やや表現力の向上に欠かせません。
しかしながら、何の楽器をやるにせよ、実技の能力だけでなく音楽の基礎体力が必要になってきます。
そして、ソルフェージュをしているかどうかで、長期的には音楽的能力やパフォーマンスに圧倒的な差が生まれてしまうのです。。
つまり、ソルフェージュとは、音楽の基礎体力をつくるトレーニングのことであり、音楽という教材を使って音楽の能力を伸ばすことを目指すものなのです。
リトミックという言葉について
ソルフェージュと似た言葉に、「リトミック」という言葉があります。
リトミックとは一体どのようなものなのでしょうか?
武石宣子「リトミック教育―理論と実践―」では、リトミックの創始者であるダルクローズ(Emile Jaques-Dalcroze)の言葉を引用しながら、以下のように説明されています。
リトミックとは、身体のリズミカルな感覚を訓練し、あらゆる速度の変化や、強弱の変化を通し、それらのニュアンスの変化を正しく演行する能力を養う教育方法のことである。
この方法は、音楽と身体的表現を融合するシステムで行われ、単に知的なものだけで展開されるのではなく常に感覚を通した反応活動を伴って展開される。反応活動は思考力と密接に結びついた行動であり、感覚機能の鋭敏さによって左右される。感覚機能の発達は、10歳前後で止まり、固まってしまうという心理学的及び生理学的なデータが残されている。ゆえに、特に幼児期におけるリトミック活動が感覚機能を鋭敏にするために必要であることがわかる。
これらの感覚機能が鋭敏になることによって、集中力、直観力、記憶力、想像力、創造力などの活動を高めることの助けになる。そして、全ての束縛から解放され、芸術的な感動を持つことになる。
――武石宣子「リトミック教育―理論と実践―」(相川書房)2010年 より引用
また、以下はダルクローズのリトミックに基づく教育を展開する"The Dalcroze Institute"のリトミックに関する説明をを日本語に訳したものである。
ダルクローズのリトミックは、身体的動作に基づく能動的な音楽教育法である。生徒(子ども もしくは 専門家)は、音に合わせた動作を通じて感知するものや指導者が奏でるリズムを感じ取るように導かれる。
…中略…
ダルクローズの方法論は、無自覚な場合もあるが、子どもたちの中で、音楽の学習過程の範囲内に限定されない幅広い領域で役立つ、基礎的な聴力や運動能力、社会性の発育を促進する。
…中略…
生徒は、五線上の記号を分析したり演奏したりする中での、音に合わせた即興や運動を通して、能動的に楽しみながら音楽を含む基礎的能力を上手く使うように誘引される。
…中略…
生徒は学習過程で、既知のものから未知のものへ、簡単なものから困難なものへと導かれる。そして、生徒はレッスンを通して、以下のような一生涯役立つ能力を開花させることができるのである。
・音楽性や、リズム感、運動能力
・想像性や創造性
・社会性
・公の場での平静
・精神的な均衡と落ち着き
・知的・身体的敏捷性
・集中力――Jaques-Dalcroze Institute"what is eurhythmics?"(https://www.dalcroze.ch/english/what-is-eurhythmics/)より翻訳・抜粋。
これらをまとめると、リトミックとは、概ね以下のように説明できます。
リトミックとは、音楽と身体的表現を融合させることによって、リズムの感覚を養う音楽教育の一方法です。
リトミックの、音に対する身体的な反応によって磨かれる感覚機能は、思考力と密接に結びついています。
子どもは、リトミックを通じて感覚機能が発達することによって、生涯にわたって役立つヒューマンスキルをも身につけることができます。
つまり、リトミックは、音楽と身体的な動作を組み合わせることによって、ヒューマンスキルを養成することを出発点としているのです。
リトミックもソルフェージュ同様、リズム感・といった音楽的能力を伸ばすことも目的のひとつではあります。
しかしながら、それ以上にヒューマンスキルの向上を追求している点が、ソルフェージュにはない特徴であると言えます。
ソルフェージュとリトミックの最も大きな違いは「どんな能力を育てたいのか」
では、以上を踏まえて「ソルフェージュ」と「リトミック」の違いを考察していきましょう。
結論から言えば、ソルフェージュとリトミックの大きな違いは、「どんな能力を伸ばしたいか」にあります。
ソルフェージュが目指すのは「基礎的な音楽能力を育むこと」
ソルフェージュの目的は、「音楽の総合的な基礎力を育てること」にあります。
また、ソルフェージュは、聴音や視唱などを行うという意味で、音楽が手段でもあります。
すなわち、ソルフェージュにおいては、音楽は「手段」であり、「目的」でもある、ということです。
ソルフェージュは、聴音や視唱などの音楽という手段を用いて、音楽の能力を伸ばすことを目的としているのです。
ソルフェージュは音楽的な能力に力点が置かれていますから、リトミックのようにヒューマンスキルの向上にはほとんど言及されません。
この点が、ソルフェージュとリトミックの最大の違いでしょう。
リトミックが目指すのは「感覚機能を発達させヒューマンスキルを伸ばすこと」
一方で、リトミックの目的は、音楽と身体的動作を組み合わせることによって、感覚機能の発達に伴うヒューマンスキルの向上にあります。
ダルクローズのリトミックの出発点は、音楽を教育に取り入れることによって、子供たちの豊かな能力を引き出そうという思いがあったのです。
この点が、音楽の向上を目的とするソルフェージュとの最も大きな違いなのです。
もちろん、リトミックも音楽的な能力の向上を目指していないわけではありません。
リズム感の養成なども、リトミックの重要な使命のひとつではあります。
しかしながら、音楽的な能力以外に、人間的・社会的な能力を高めることに大きな力点が置かれていることこそが、リトミックの最大の特徴であると言えます。
ソルフェージュとリトミックの違いを踏まえて言葉を使い分けよう
以上のように、ソルフェージュとリトミックの大きな違いは、音楽的な能力の育成に力点が置かれているか、ヒューマンスキルの育成に力点が置かれているかという点です。
そして、途中でも述べましたが、リトミックも音楽の基礎能力を全く目指していないわけではありません。
ただ、それ以外のヒューマンスキルの育成も主たる目的としてあるということは、必ず押さえておきたいポイントです。
一方で、ソルフェージュとリトミックを同じような意味で使っている方もたくさんいます。
また、リトミックを応用したソルフェージュを展開しているような音楽教室もあります。
つまり、ソルフェージュとリトミックは目的に違いがあれど、重なる部分もたくさんあるのです。
したがって、ソルフェージュとリトミックのおおまかな違いを念頭に置きながら、言葉を使う相手がどう解釈しているかによって、使い分けていくという意識を持つようにしましょう!
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