進歩

ブルグミュラー「進歩」(前進)を解説!解釈・弾き方のコツ・練習方法

ブルグミュラー「進歩」の楽曲解説イメージ画像

ブルグミュラー25の練習曲の6曲目は「進歩」です。

この曲の原題は"Progrès"、英語で言うところの"Progress"です。教本によっては「前進」と訳されることもあります。

この曲の題名が表す「進歩」「前進」は、楽曲のどのような部分に表れているのでしょうか?

このページでは、ブルグミュラー「進歩」の解釈のポイントや弾き方のコツ、練習方法などを余すことなくお伝えします♪

ブルグミュラー「進歩」の概要を解説

まずは、ブルグミュラー「進歩」の概要について簡単に解説しておきます。

拍子は4分の4拍子で、調はハ長調です。

テンポ表示は「Allegro(アレグロ)」です。学校の音楽の教科書などでは「速く」という意味で習っていると思いますが、もともとのイタリア語の意味は「快活な」「陽気な」という意味。快活な感じに聴こえるテンポ、ということなんです。

楽譜の最後には、「D.C. al Fine」と書かれています。これ、「ディーシー」と呼ばないように。イタリア語で「Da Capo」。「ダ・カーポ」と読みます。「はじめに戻る」という意味です。

「al Fine」というのは「Fineまで」という意味ですが、この語句は書かれないことが多いですね。

D.C.と書いてあれば曲の冒頭に戻り、「Fine」と書いてあるところで終わります。「Fine」は「フィーネ」と読み、「終わり」という意味です。

・・・というわけで、A-B-Aの三部形式の曲となっています。

曲名はフランス語なのに、楽語はなぜイタリア語?と思った方もいらっしゃるかもしれません。

音楽の世界ではイタリアが先進国だったという歴史があり、共通語として楽語にはイタリア語が使用されるのが慣習です(時代が下ると、その他の国の言葉で書かれるケースも出てきますが)。

また、参考動画も下に掲載しておきます。まずは音でイメージをつかみたい方は、ブルグミュラーの大家・赤松先生の演奏で事前学習してみてください!

「進歩」「前進」をどう解釈する?

ブルグミュラー「進歩」は、上行するスケール(音階)が何度も登場します。

スケールの上行部分だけを見ると、確かに「進歩」「前進」という題名も納得できます。

しかしながら、この曲では、上行した後に下行形が入ったりと、真っすぐに上ってばかりではありません。せっかく進歩したのに、停滞したり退歩したりしているような印象を受けます。

さらには、途中には短調の悲しげな雰囲気の部分さえあります。なんとなく悩ましい感じがします。

いったいこれのどこが進歩と言えるのでしょうか?この曲は、解釈しづらい曲であると言われることも多いです。

ですが、実はこの「停滞」や「苦悩」こそが、進歩の本質だと私は思うのです。

進歩したり前進したりする過程では、常に前に進み続けるわけではありません。

時には、たくさん練習しているのに全く上手くならないこともあります。

殻を破ってやり方を変えてみると、最初はうまくいかず、むしろ退歩してしまったと感じることだってあります。

いわゆる、「スランプ」や「プラトー」と言われるような状態です。

有名な歌の一節にも、「3歩進んで2歩下がる」と歌われていますよね。

でも、大きな飛躍とは、「スランプ」や「プラトー」の中で苦しみもがき、様々な試行錯誤を経てやっと手に入れることができるものなのではないでしょうか。

きっと、みなさんも経験があるはずです。

そう考えてもう一度「進歩」の楽曲を見つめなおしてみると、あら不思議・・・

前進しては下行して、時に停滞を乗り越えてまた前進して、最後には最も高いところまで到達する。

ブルグミュラーさんの「進歩」こそ、この世の「進歩」の本質を最もよく表している曲だと私には思えてなりません。

「進歩」「前進」の弾き方のコツ・練習方法は?

ブルグミュラー「進歩」(前進)の曲のイメージをつかんだところで、いよいよ弾き方のコツを、練習方法を交えて学んでいきましょう!

音階で展開(A:1~8小節目)

「進歩」は、上行する音階からスタートします。左手はドの音、右手はその10度上のミの音から始まります。

10度のハモリで上昇する音階が印象的です。まさに、「進歩」という感じがします。

両手で同時に音階を弾く時は、右手と左手で指をクロスする箇所が異なるので注意しましょう

前曲「無邪気」でアーティキュレーション(音のつなぎ方や切り方で表情をつけること)の重要性に触れましたが、この「進歩」ではそれが顕著です。

スラーがどの音までかかっているか、楽譜をよく見ましょうね。

3小節目ではまず右手が、それに応えるように4小節目では左手がスタッカートで動きます。

以前ブルグミュラー「アラベスク」のページでもご紹介しましたが、スタッカートの弾き方にはコツがあります。

指先を鍵盤に置き、手首のスナップを利かせ、ボールをドリブルするようなイメージを持つことです。

指先で叩かず、手首がVの字の形になってしまわないように気をつけましょう。

8小節目は両手で音階の反進行(それぞれが逆方向に進むこと)です。

反進行の場合は、指のクロスが同じタイミングになるので弾きやすいですね。音が広がるイメージでクレッシェンド(cresc.)して、f(フォルテ)で締めましょう。

アップビート(上拍)からダウンビート(下拍)にかかるアーティキュレーションが特徴的な中間部(B:9~16小節目)

「進歩」の特徴として、9小節目の中間部からイ短調に転調することがあげられます。

9小節から12小節目、3~4小節目と同じくように右手の動きに応えて左手が後から動くという形です。

ただし、半拍ずれて始まり、しかもすべてスタッカートではなく、2音ずつ細かくスラーがかかっています。

それに伴い、アクセントの位置もずれて、また違った表情が生まれています。

弾きにくいと感じる人もいるでしょうが、これがこの曲のおもしろさでもあるのでマスターしてください(笑)。コツは、音をまとまりとしてとらえることです。

9小節目はラドミ、10小節目はレファラ、11小節目はソシレ、12小節目はドミソの和音で展開しています。

音を出さずに、鍵盤上で該当する和音に指が置かれているか、確認してみましょう。

指を移動した際に、最初の音だけでなく、次の音や次の次の音まで指が置かれている状態でなければスムーズに弾けません。

これができたら、スラーのかかっている2音を同時に、和音にして続けて弾いてみます。

その後、楽譜どおりにアーティキュレーションをつけて弾く…という手順で練習するのがおすすめです。

13~15小節目も、右手が半拍ずれて始まり、2音ずつ細かくスラーがかかっているというアーティキュレーション。

ここは左手にも動きがあり、さらに難易度アップです。どのような動きなのか、分析してみましょう。

右手のアップビート(上拍)はミの音で固定しているということに気づけば、ずいぶん弾きやすくなります。

まず、13~14小節目は1の指をミの音に置いたまま、15小節目は5の指をミの音(1オクターブ上の音になります)に置いたまま、変化するダウンビート(下拍)の音だけを拾って弾いてみます。

変化する音の動きを把握したら、今度は左手と合わせて、ダウンビート(下拍)の音だけ弾きます。これが旋律であり、ハモリになっていますね。ですから、この場合のスラーの最後の音は抜かずに、しっかり鳴らしましょう。

その響きをインプットしたら、楽譜どおりに弾いてみましょう。つまり、旋律の合いの手のように、ミの音が挟まるわけです。

それぞれの音の役割を理解することがポイントですね。

16小節目まで弾いたらD.C.(ダ・カーポ)。最初に戻って音階で「進歩」を表現します!

「進歩」「前進」の学習のポイントは?

では、最後に「進歩」「前進」を学習する上で意識しておきたいポイントをご紹介して締めくくりたいと思います。

この曲を練習する際は、以下のような点をしっかり意識して練習しましょう!

・両手での音階
・レガートとスタッカートの弾き分け
・さらに細やかなアーティキュレーションの習得

余談ですが、これまでのブルグミュラーの曲に比べて、この曲はなんだかシステマチックに感じます。

特に中間部。なんだか、カチッカチッと歯車が噛み合わされていくようなイメージ。産業革命という時代背景をほうふつとさせます。

ある意味、産業革命によってピアノという楽器が完成し、ブルジョア中産階級にピアノ文化が入ってきたのですけどね。

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