今回は、バロック時代の「組曲」と、それを構成する「舞曲」のお話です。
バロック時代の組曲は4種類の舞曲(アルマンド・クーラント・サラバンド・ギーグ)を中心として構成され、それらにギャラントリーという舞曲が挿入されていました。
このページでは、それぞれの舞曲のスタイルについて詳しく見ていきましょう!
組曲としての舞曲=アルマンド・クーラント・サラバンド・ジーグの成立
組曲とは、複数の小さな曲や楽章を組み合わせて、まとめて1つの曲としたもののことです。
組曲と言えば、現在では器楽曲など様々形式が見られますが、バロック時代には、組曲といえば、「舞曲」のことを指していました。
舞曲とは、もともとは舞踏のための音楽のことを指します。しかしながら、舞曲は時代を追うごとに、器楽曲として独立したものも見られるようになっていったのです。
16世紀の頃の舞曲は、パヴァーヌ(ゆったりとした2拍子の舞曲)に続くガイヤルド速い3拍子の舞曲)という組み合わせが主流でした。
しかしながら、17世紀にはこのような舞曲の形式に変化が見られます。
17世紀になると、ルイ14世が舞踊を保護したこともあって、新しい舞曲が次々と誕生しました。もともとは民族的だったダンスが、宮廷を舞台に変化し、洗練されていったのです。
このような舞曲の変化の中で、複数の小曲をまとめて1つにした組曲が成立しました。
組曲の形式を確立したのは、ドイツのフローベルガー(1616~1667)であると言われています。それまで組曲の構成は流動的でしたが、フローベルガーは、アルマンド・クーラント・ジーグ・サラバンド(後に、ジークとサラバンドの順番が入れ替わる)の順に並べる形式を確立し、調性をそろえ、主題も共通にして統一感を持たせました。
そして、バッハの時代には、アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグの基本要素はそのままに、サラバンドとジーグの間に「ギャラントリー」と呼ばれる当時流行の舞曲が挿入されるようになりました。
では、アルマンド・クーラント・サラバンド・ジーグとはどのような舞曲なのか、ひとつずつ見ていきましょう!
アルマンド(Allemande)|緩やかな音が連なる舞曲<ドイツ風>
バロック時代の組曲を構成する第1の舞曲は、「アルマンド」です。アルマンドは、フランス語で「ドイツ風」を意味する言葉です。
アルマンドは、ゆるやかな十六分音符が連なる4拍子系の2部形式の曲で、しばしば十六分音符1つないし3つのアウフタクトで始まります。
ほどほどにゆっくりでシリアスな雰囲気を持っています。
古風で素朴というニュアンスで、「ドイツ風」と言われていたと推測されます。
クーラント(Courante)|軽やかさのある舞曲<フランス風/イタリア風>
バロック時代の組曲を構成する第2の舞曲は、「クーラント」です。クーラントは、フランス語の「走る」を由来とする舞踏です。
3拍子系のやや速めのテンポの曲で、形式は2部形式です。
クーラントは、フランス型とイタリア型の2種類があります。
フランス型は2分の3拍子と4分の6拍子が交互に表れ、アクセントの位置が変化するのが特徴です。一般的には、神聖で荘厳な雰囲気を持っています。
イタリア型は4分の3拍子あるいは8分の3拍子で、フランス型よりも活発な動きの曲です。バッハはイタリア型クーラントの場合には「Corrente(コレンテ)」とイタリア語表記をしています。
サラバンド(Sarabande)|荘重なテンポの舞曲<スペイン風>
バロック時代の組曲を構成する第3の舞曲は、「サラバンデ」です。
サラバンデは中央アメリカからスペインに渡り、ヨーロッパじゅうに広まったと言われています。
もともとは急速で挑発的な踊りだったため禁止されたこともありましたが、フランスの宮廷舞踊に取り入れられて、バロック時代には荘重なテンポの曲となりました。
3拍子と言えば、1拍目にアクセントが置かれるのが一般的です。しかしながら、サラバンデは、3拍子の2拍めにアクセントが置かれるのが特徴です。しばしば付点四分音符と八分音符を組み合わせたリズムが多用されます。
ジーグ(Gigue)|躍動的な動作の舞曲<イギリス・アイルランド風>
バロック時代の組曲を構成する第3の舞曲は、「ジーグ」です。
ジーグは、イギリスやアイルランドの「Jig」という踊りが発祥と言われています。
飛び跳ねるような動きが特徴的で、8分の6拍子または8分の12拍子といった複合拍子で書かれています。
ジーグも、フランス型とイタリア型に分かれています。
フランス型は付点リズム、跳躍、旋律の模倣による対位法的な展開などが見られるのが特徴です。
一方で、イタリア型は分散和音の音型が急速に駆け回る明快な構成で、イタリア語表記では「Giga(ジーガ)」となります。
代表的なギャラントリー=挿入的な舞曲
ここまでで、組曲の骨格であるアルマンド・クーラント・サラバンド・ジーグについて確認してきました。
そして、アルマンド・クーラント・サラバン・ジーグに加え、ギャラントリーと呼ばれる舞曲がバッハの時代には組曲中に挿入されるようになります。
このギャラントリーの中から、いくつか代表的なものピックアップしてみましょう。
メヌエットは、フランス起源の中庸なテンポの3拍子の舞曲です。メヌエット~トリオ~メヌエットといった三部形式もよく見られます。
ブーレは、フランスのオーベルニュ地方起源で、軽快な4拍子系の舞曲です。四分音符1つ分のアウフタクトで始まるのが特徴です。
ガヴォットはかつてのドーフィネ地域のガヴォという場所が発祥であると言われています。
ブーレと似ていますが、小節後半の四分音符2つのアウフタクトで始まるのが特徴です。ちなみに、「アマリリス」(フランス民謡)もガヴォットのリズムです。
ギャラントリーには、他にもエール、ポロネーズ、パスピエといった種類があります。
舞曲のキャラクターを感じて
いずれの舞曲でも前半・後半の二部構成で、それぞれに繰り返し記号が付きます。サラバンドやギャラントリーでは、後半が前半より長くなることが多々あります。
アルマンドの前に前奏曲が置かれることもあります。
ギャラントリーの中には、メヌエット、ガヴォット、ポロネーズのように後世に長く残った形式もあるので、機会があればこちらについても詳しく触れたいと思います。
余談ですが、J.S.バッハの作曲した舞曲はそれぞれの曲のキャラクターを表す言葉と化していて、実際には踊れないと言われています。
「アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳」に収められている、メヌエット ト長調(BWV Anh.114)とト短調(BWV Anh.115)であれば踊ることも可能です。
しかしながら、こちらの曲は、実際にはペツォールトという作曲家の作品なのです…残念ながら。
往々にしてテンポが速すぎるのは、踊りを想定していない場合が多いからです。そのため、踊りの所作やステップをイメージすることは、舞曲をつくりあげる際に非常に重要なことだと言えるでしょう。
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