通奏低音とは、バロック時代のアンサンブル楽曲に用いられる、メロディを支えるベースラインや和音のパートのこと。
ポリフォニーのオペラの「言葉が聴き取りにくい」という欠点を補うものとして発展し、器楽曲にも用いられるようになった。
チェンバロやオルガンなどの鍵盤楽器のほか、チェロやリュートなどが通奏低音の役割を担っていた。
バロック音楽は「通奏低音の時代」と言われるくらい、「通奏低音」は音楽に欠かせない存在でした。
しかし、実際のところ、通奏低音って何なの?どうやって生まれたの?といった疑問を抱く人も少なくありません。
このページでは、そんな「通奏低音」を理解するために、通奏低音とは?通奏低音の成り立ちは?そんな疑問に広く回答していきたいと思います!
通奏低音とは?オペラから生まれた即興的な低音および和音の伴奏
通奏低音とは、主にバロック時代に見られた、高音のメロディを支える低音・和音の即興的な伴奏パートのことです。
通奏低音は、多くの場合にオルガンやチェンバロなどの鍵盤楽器が担当し、声楽や器楽のメロディを低音で支えていました。
では、バロック時代の象徴ともいえる「通奏低音」は、どのようにして成立したのでしょうか?
実は、通奏低音はもともと「オペラ」から生まれたものです。
このことを理解するために、ルネサンス期の音楽に見られた、旋律の変化について見ていきましょう。
バロック時代の前には、ルネサンスという時代がありました。
ルネサンス時代は、カトリック教会の権威が揺らぐとともに、それまでの価値観にも疑いが向けられるようになった時代です。
新しい価値観を求めて古代ギリシャや古代ローマの古典文化を研究し、それまで抑圧されてきた人間的なものに価値を見い出すようになりました。
そして、その文芸や美術を「再生・復活」させるという意味で「ルネサンス」と言われるようになったわけです。
美術や文芸に遅れて、音楽における「復興」が意識され始めたのは、ルネサンス末期のことです。
その頃「カメラータ」と呼ばれる研究グループが結成され、古代ギリシア音楽の復興を目指す試みが行われました。
そして、この古代ギリシャ劇を復活させようという動きから「オペラ」が誕生します。
それまでの時代では、「ポリフォニー」という音楽形式がよく見られました。
ポリフォニーとは、「複数の声部」を意味する言葉で、ひとつの旋律ではなく複数の旋律が調和しながら同時に登場する形式のことです。
ポリフォニーのオペラにはある弊害がありました。それは、「言葉が聞き取りにくい」ということです。
そこで、より感情を表現できる方法として、歌(メロディ)に簡素なベースラインと和音を付けるという「モノディ様式」が生まれたのです。
そして、通奏低音とは、モノディ様式におけるベースラインと和音のパートのことを指します。
モノディ様式が普及してからは、通奏低音を基礎としてオペラ楽曲が書かれるようになりました。
また、通奏低音はオペラの世界だけにとどまらず、器楽の楽曲にも広く用いられるようになったのです。
通奏低音の楽器構成は?
通奏低音のパートは、ベースラインを演奏する低旋律楽器+和音を弾く楽器で構成されます。たとえば、以下のような楽器が通奏低音に用いられました。
- 低旋律楽器:バス・ヴィオール(ヴィオール属という弦楽器の低音域楽器)、ヴィオローネ(コントラバスに近い楽器)、チェロ、ファゴットなど
- 和音を弾く楽器:チェンバロ、オルガン、リュート、テオルボ(大型のリュート)、ハープなど
モンテヴェルディのオペラなど、通奏低音群として複数の楽器を使用している作品も見られます。
通奏低音にどの楽器を使うかは特に指定がない場合が多く、比較的自由です。
一般的には、チェロ+チェンバロ(あるいはオルガン)という形が多いのではないでしょうか。
和音は即興的に?通奏低音の楽譜の特徴
通奏低音は低旋律のみ楽譜に書かれており、和音は即興的に弾きます。
ちなみに、和音を弾く楽器は和音だけを弾くのではなく、低旋律楽器と連動して、低旋律も一緒に弾きます。
チェンバロやオルガンの場合だったら、左手で楽譜に書かれている低旋律を、右手で和音を弾くことになります。(現代の楽譜では、和音の部分も音符に書き起こし、大譜表として書かれているものがありますが、実際に作曲家が書いているのは左手の部分のみ。なので、右手は楽譜どおりに弾く必要はありません!)
和音を弾く楽器は低旋律と和音の両方を弾いているので、低旋律楽器を省略して、チェンバロ(あるいはオルガン)のみで通奏低音とすることもあります。
しかし、理想はやはり、低旋律楽器+和音を弾く楽器の組み合わせです。
一人で低旋律と和音の両方を弾くとなると、低旋律を聴かせるために、即興で入れる和音を調整しなくてはならないので、低旋律楽器でしっかり鳴らしてもらえるとそのような制約がなく、和音を入れることができるからです。
数字付き通奏低音とは?
通奏低音の中には、「数字付き通奏低音」というものがあります。
数字付き通奏低音とは、通奏低音のうち、低旋律の楽譜に数字が書かれたもののことです。
この数字は、その低音に対して何度上の音を弾くか、ということを表しています。コードネームのようなものだと思ってください。
基本的に、3度や5度の数字は省略されるので、何も書かれていなかったら基本形の和音です。たとえば、低音がドの音だったら、ドミソの和音を弾きます。
これがもしドの音のところに6と書かれていたら、ドミラの和音になります(3度の数字は省略されるので、書かれていません)。
これらの数字はあくまでも目安ですので、すべて書かれているとは限りません。
ですから、総合的に見て、どのような和音で補完していくかを判断することになります。
通奏低音の演奏の極意
では最後に、通奏低音を演奏する際のポイントを確認して、このページを締めくくりたいと思います。
通奏低音には即興演奏が欠かせませんが、即興の和音で上のメロディを邪魔するような動きをしては本末転倒です。
和音パートの楽器の演奏者としては、慣れないうちはつい「どのように和音を入れようか」ということに気を取られ、低旋律の表現がおろそかになりがち。
あくまでも旋律が主となるように、低旋律でしっかり支えつつ、さらに引き立たせるような和音を入れるようにしたいものです。
強調したい部分では和音の数を増やして厚みを増したり、逆に軽くしたい部分では音の数を減らして短く弾いたり。
アルペジオにしたり、経過音を入れたりしてもよいでしょう。
同じ和音でも、どの音域で弾くか、どう転回させるか(和音の一番上の音を何にするか)でニュアンスが変わります。
つまり、通奏低音の演奏には、曲全体を見通すスコアリーディングの能力が求められるのです。
縁の下の力持ちとして、旋律パートがどのように表現したいかを汲み取り引き立たせることこそが、通奏低音の役目だと言えます!
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