このページでは、ブルグミュラー25の練習曲より、「スティリエンヌ」について解説していきます。
私たち日本人にとって、「スティリエンヌ」という言葉だけでは曲をイメージしにくいもの。
そこで、「スティリエンヌ」を解釈するための背景を交えながら、弾き方のコツと練習方法を見ていきましょう。
ブルグミュラー「スティリエンヌ」(スティリアの女)の概要を解説
「スティリエンヌ」は、ブルグミュラー25の練習曲の14番目に掲載されている曲です。
拍子は4分の3拍子、調はト長調です。
テンポ表示は「Mouvement de valse」。これはフランス語で表記してありますね。「ワルツの速さで」です。
ワルツの速さってどのくらいなのでしょうか?
初版ではメトロノーム176と書いてあります(ちなみに、ブルグミュラーの自筆譜は残っていないそうです)。これはかなり速いですね!ちょっと無理があるかも。
現在の全音版では、148~160と表記してあります。私も150くらいで弾いた記憶があるので、これが妥当な線ではないでしょうか。
もう少し遅め(120くらい)でもよいと思います。テンポにこだわりすぎるよりも、音楽的表現のほうが大事です。
ご参考までに、日本ダンススポーツ連盟の「JDSF競技規則」などの社交ダンス競技大会や認定試験で規定している曲のテンポでは、ワルツは84~90、ヴィーニーズワルツ(ウインナワルツ)は174~180だそうです。
ここでのワルツは「テネシーワルツ」のようなスローワルツを指すので、この曲の場合はヴィーニーズワルツより少し遅めのテンポを想定するとよいのかもしれません。
続いて学習のポイントですが、まずは、ワルツ感を出すことでしょう。
左手の3拍子の刻み、強・弱・弱をキープです。
そして、レガートとスタッカートの引き分け、アーティキュレーションも重要なポイントです。
楽曲の形式は、イントロ-A-B-C-A-Bの複合三部形式です。
繰り返しが多く、構成はシンプルですが、ブルグミュラー25の練習曲の中で、私はこの曲が一番難しいと思います!
参考動画も以下に掲載しておきますので、ぜひご参照ください。
「スティリエンヌ」を解釈するために
ブルグミュラー「スティリエンヌ」の原題は「La Styrienne」です。
ですそして、このタイトルにはいろんな訳があります。
全音版では、かつて「スティリアの女」と記載されていました。「いったいどんな女?」と思ったものです。
曲の雰囲気からなんとなく、民族衣装を着て、跳ね回って踊っている女の人を連想していました。
フランス語で、「La」は女性形の定冠詞、そして、地名の後ろに女性形の接尾辞「-ienne」をつけることで「(地名)生まれの女性」「(地名)に住む女性」を表します。
オーストリア東南部、アルプス山脈の東側の終端あたりに位置しているシュタイヤーマルク州を指して、フランス語ではスティリィ(Styrie)と言うらしいんですね。
パリの女性を「パリジェンヌ」というのと同じことですね。
ところで、現在の全音版では、「シュタイヤー舞曲(アルプス地方の踊り)」と記載されています。
チロルやバイエルンで踊られていた「ヴェラー」から発展した「レントラー」という踊りがあって、飛び跳ねたり、靴で床を鳴らしたり、ときには男性の肩越しに女性を投げ下ろしたり、という踊りだったそうです。
そんな農民や狩人の生活に密着した田舎の踊りだったものが、オーストリアや南ドイツを中心に人気が広まり、洗練されていきます。
それが「スティリエンヌ(スティリア風)Styrienne」と呼ばれ、さらに発展して「ワルツ」となるのです。
そのような歴史的背景を鑑みて、舞曲を前面に出したタイトルを採用したのでしょう。
ダブルミーニングもあるように思えるので、個人的には音楽之友社が採用している「スティリエンヌ」というタイトルがいちばんしっくりきます。
いずれにせよ、「ワルツ」にまで発展していった踊りであることを知っておくと、曲のイメージをつかみやすいでしょう!
「スティリエンヌ」の弾き方のコツ・練習方法は?
スティリエンヌの楽曲のイメージを確認したところで、続いては弾き方のコツを、練習方法を交えて確認していきましょう。
期待に胸をふくらませつつ…(イントロ:1~4小節目前半)
「スティリエンヌ」の1~4小節目は、イントロの部分に当たります。
ダンスの始まる前、わくわくしながら待つ様子をほうふつとさせます。
右手1拍目の装飾音は鋭く。2拍目、3拍目の和音はうんと軽く、スタッカートで演奏するのがポイントです。
ダンスが始まります(A:4小節目後半~12小節目前半/36小節目後半~44小節目前半)
4小節目からは、Aのパートに入ります。
八分音符3つのアウフタクトで始まるのがいかにもダンスらしいですね。
grazioso(グラツィオーソ/優雅に)と書かれています。アウフタクトの八分音符のスタッカートは軽やかに、鍵盤の近くで弾きましょう。
8小節目の八分音符はなんとなく流して弾かないようにしましょう。
というのも、後半の3つの音は次のメロディへと続くアウフタクトなので、新たにフレーズを始めるつもりで弾きたいところです。
少し雰囲気を変えて(B:12小節目後半~28小節目前半/44小節目後半~60小節目)
12小節目からは、Bのパートへ入ります。
ここで、左手の音符の書き方に注目しましょう。
A部分では八分音符だったのが、ここでは四分音符だったり、1拍目が付点二分音符だったり…同じ3拍子の刻みでも変化しています。
ここにはブルグミュラーの意図があると思いますので、それを汲み取りたいですね。
右手の装飾音は、左手の1拍目に合わせましょう。装飾音そのものがアクセントになると考えられます。
12小節目後半~20小節目はホ短調、21小節目からト長調に戻ります。この部分は、右手の2拍目・3拍目の四分音符の音が大きくなりがちですから、あくまでも軽く!を忘れずに。
音の跳躍がショパンのワルツを思わせる?(C:28小節目後半~36小節目前半)
28小節目からは、Cのパートです。
deciso(デチーゾ/確固とした)の表記があります。ここでハ長調に転調します。
右手はオクターブ以上の跳躍の連続(29・31・33小節目)!なかなか音が命中しなくて、苦労する部分です。
コツは、次に弾く音の鍵盤の位置を先に見て、狙いを定めておくということです(つまり、現に弾いている鍵盤を見ていてはいけない)。そして、最短距離を移動し、鍵盤に指を乗せてから弾くこと。
また、3拍目は1拍目と同じ音に戻る、ということも気に留めておくとよいでしょう。
この部分が難しいのはこれだけでなく、右手のアーティキュレーションの変化(3拍目から1拍目にスラーがかかっている)だったり、左手にもここ一番の跳躍があったり(29小節目)、ベースラインをつなげないといけなかったり(31~34小節目)、これらにすべてに対応しないといけないからです。
34小節目の後半の八分音符、これまでのパターンだとスタッカートなのですが、ここではスラーがついているのでレガートに。最後の右手の和音の連続でも、スラーがついているのでなるべく音が切れないように、なめらかに弾きましょう。
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