今回は、ブルグミュラー「狩り」についての楽曲解説です。発表会でも演奏される、人気の曲ですね!
曲の解釈の仕方や弾き方のコツなどを、練習方法を交えて詳しく見ていきましょう!
ブルグミュラー「狩り」(狩猟)の概要を解説
「狩り」はブルグミュラー25の練習曲の9番目に掲載されている曲です。
原題は「La chasse」です。「狩猟」と訳されることもあります。
「狩り」の楽譜は、全音版の場合見開きで2ページにわたります。
これまで1ページで収まっていた曲が倍の長さになるので、「こんなに長くなるの?」とちょっぴりひるんでしまいますが、ご安心を。
曲の構成を知ることで曲全体が把握しやすくなり、譜読みの目処が立ちますよ。
楽曲の概要ですが、拍子は8分の6拍子、調はハ長調です。
8分の6拍子という複合拍子は、3曲目の「パストラル」以来ですね。
「パストラル」のAndantinoというテンポに対し、こちらは「Allegro vivace」。7曲目「清い流れ」と同じテンポ表示です。
[1・2・3][4・5・6]と大きく2拍子で感じながら弾きましょう。
音で楽曲のイメージをつかみたい方は、以下の動画をご参照ください。
楽曲の形式は?(小)ロンド形式について
「狩り」の楽曲の構造は、イントロ-A-B-A-C-A-Coda(終結部)という構成です。
ですから、Aの部分が弾ければ曲の半分はクリアです。
最後のCodaもイントロのモチーフ(素材)を拡大したものなので、最初の1ページ(イントロ-A-B-Aの部分に当たります)ができれば、残りの譜読みはわずかです。
このように、違うメロディーを挟みながら、同じメロディーAを繰り返すという形式を「ロンド形式」と呼びます。
この曲のような、A-B-A-C-Aといった構成は「小ロンド形式」。
さらに拡大したA-B-A-C-A-B-Aという構成は「大ロンド形式」と言い、単に「ロンド形式」と言うとこちらを指すことが多いです。
(A-B-A)-C-(A-B-A)と見ると複合三部形式ともなり、シンメトリーの美しい形式とされています。
小ロンド形式は、大ロンド形式を縮小したものと言えるでしょう。
学習のポイントは?
続いて、「狩り」練習する際の学習のポイントについて整理しておきましょう。
ブルグミュラー「狩り」には、以下のような要素が含まれています。
- アウフタクト(弱起)
- レガート、スタッカート、マルカートの弾き分け
- さまざまなスタッカートの弾き方
- 小ロンド形式によるAメロ、Bメロ、Cメロの場面転換(長調⇔短調、左手メロディー⇔右手メロディー、その他表現の変化)…etc.
これらのポイントについては、続く「弾き方のコツ・練習方法」の箇所でも改めて見ていきます。
「狩り」の弾き方のコツ・練習方法は?
ブルグミュラー「狩り」の概要について確認したところで、いよいよ弾き方のコツについて、練習方法を交えながら学んで行きましょう!
狩が始まるぞ~!(イントロ:1~4小節目)
狩猟は肉や毛皮といった生活の糧を得る手段というだけでなく、王や貴族の娯楽でもありました。
この曲で描写している狩は、そういった娯楽としての狩でしょうね(その理由は後述)。
この練習曲集では初の、アウフタクト(弱起)で始まる曲です。八分音符と四分音符のリズムの組み合わせが、パカッパカッと馬の足並みを思わせます。
注意したいのは、曲が八分音符から始まるため、八分音符のほうにアクセントが付きやすいこと。強拍は四分音符のほうなので、四分音符にアクセントが付くように弾きましょう。
また、ドミソの和音の転回がスムーズに行くように、和音のポジション移動の練習もしておきましょうね。
和音の弾き方については、2曲目「アラベスク」の「出だしが肝心!左手の和音をうまく弾くには?」の項の説明と一緒です。
手首のスナップをうまく使い、ボールをドリブルするようなイメージで演奏してみましょう。
この時のポイントは、指先を鍵盤から離し過ぎないことです。
やってみたら、指先を離して弾いた場合より、軽やかな音色が出せるはずですよ♪
この前半部分はp(ピアノ)で始まり、和音の転回により音が上がっていくに従って、cresc.(だんだん強く)、そして、ソシレの和音でf(フォルテ)。
向こうからだんだん近づいてくる伝令が、「王様のお出ましだぞ~」と知らせるファンファーレでしょうか。
このソシレの和音にはフェルマータの記号が付いています。「延長記号」と訳されることもありますが、本来の意味は「停止」です。ですから、イタリア語では「バス停」の意味でも使われます。
どのくらい止まるのか。それは決まっていません。演奏者のセンスです(笑)。慌てることなく、心ゆくまでソシレの和音を響かせてください(でも、間延びしないように注意しましょう)。
左手のホルン5度の響きは狩の象徴(A:5~12小節目/21~28小節目/37~44小節目)
5小節目から左手に現れる和音進行は、「ホルン5度」と呼ばれる独特の和音進行です。
ホルンの起源は角笛で、中世ヨーロッパの騎士たちの間で、狩猟や出陣の合図として吹き鳴らされました。
それが次第に、領主や王の権力を示す象徴となっていきます。
16世紀まで主に狩猟時の信号用楽器として発達し、馬に乗りながら吹けるように管を大きく巻いて肩に提げ、邪魔にならないようにベル(発音口)は後ろ向きになったと言われています。
オーケストラなどで、他の管楽器とホルンのベルの向きが違うのはなぜ?と思っていましたが、そういう成り立ちの故だったんですね。
現代のホルンはバルブにより一通りの音を出すことが可能ですが、かつては唇の振動を調節することでしか音程が変えられず、自然倍音しか出せませんでした。
そして、2本のホルンによるド→レ→ミとミ→ソ→ドという音の進行によって生まれる、短6度→完全5度→長3度という響きが心地良いとして、「ホルン5度」と呼ばれたわけです。
というわけで、短6度→完全5度→長3度という和音進行はホルンを連想させ、さらに「狩」や「森」を象徴するものとなったのです。
この響きを採り入れた曲はたくさんありますから、探してみてくださいね。
ホルンっぽく、この和音はマルカート(一つ一つの音をはっきり分ける奏法)で弾きましょう。
右手におけるすばやいスタッカートのコツ
さて、右手は一貫してソの音のオクターブの往復で、しかもスタッカート。だんだん音が外れてしまう…という人もいるのでは?
これまで「スタッカートは手首のスナップを利かせて」と説明していましたが、このようなすばやい動きのスタッカートには適していません。
この場合は、指先ではじくように、指先を鍵盤の手前に引くようにして弾きます。
1の指はぶれないよう下のソの鍵盤に置き、上のソの音を弾く時にすばやく手を広げ、5の指で鋭く突きます。
そして、下のソの連打はごく軽く弾き、メリハリをつけましょう。ここで、1・2と指換えを行うのもポイントです。
オクターブ上のソの音を5の指で弾いた後、すぐに2の指先を1の指を置いているソの鍵盤の位置に構えます。
それに伴い、5の指も通常の位置に戻します(広げたままだと、2の指を1の指と同じ鍵盤に置けません)。1の指を固定したままで、1の指と2の指の間の水かきを伸び縮みさせるイメージです。
「同じ音なのに同じ指で弾いちゃいけないの?」と思う人もいるかもしれませんが、実際のところ、テンポが速くなったら指換えを行うほうがラクにすばやく連打できますよ。
Aの部分は基本的に左手が主旋律ですが、8小節目と12小節目は右手も聴かせたいところ。
特に、8小節目は右手のメロディーラインで、f(フォルテ)から9小節目以降のp(ピアノ)へと、エコー効果につながるようにうまく受け渡したいですね。
ここまでで前半部分のポイントを確認してきましたが、後半は挿入されるBメロとCメロ、そしてCoda(終結部)についてです。
「un poco agitato」って?(B:13~20小節目)
13小節目からは、イントロ-A-B-A-C-A-CodaのBの部分に入り、ハ短調に転調します。
p(ピアノ)、そして「un poco agitato」と書いてあります。読み方は「ウン・ポコ・アジタート」。「un poco」が「少し」、「agitato」は「興奮して」「急き込んで」という意味です。
ただ、なぜここに「agitato」と指示してあるのかは解釈がむずかしいところです。
左手の音型に注目すると、まず高音部譜表で「(八分休符)・♯ファ・ソ」と6回、そして間に1小節を挟んだ後、次にバス譜表で「(八分休符)・♯ファ・ソ」と6回連続するのを畳み掛けるように表現する、ということで「agitato」としていると考えることもできます。
ここには不穏な空気が流れています。不安を煽られるんですよね。深い森の中に迷い込んだような怖さ。
右手の3度の和音も、ふくろうが「ホー、ホー」と鳴いているようで、死の気配さえ感じます。
なお、スラーのついた和音の奏法については、4曲目「小さな集会」の「主題(7~14小節目):和音のレガート、どうやって弾く?」の項で述べていますので、ご参照ください。
以下は、スラーのついた和音の奏法のポイントを抜き出したものです。
●和音を連続で弾く時は、必ずしも両方の指をつなげるのではなく、どちらか一方の音だけをつなげることでレガートに聴こえるようにできる(メロディーとなる上の音を優先)。
●物理的に切れてしまう音であっても、ぎりぎりまで音を持続させて意識の上ではつなげて弾くようにする。
深い悲しみ(C:29~36小節目)
29小節目からは、イ短調に転調します。
p(ピアノ)、そして「dolente」の指示があります。読み方は「ドレンテ」。
意味は「悲しげに」、そのものズバリです。「(苦痛に)悩まされた」「苦しんだ」といった意味もあります。
左手の伴奏形は「ラドミ」「ラレファ」といった、よくある分散和音です。Bメロの伴奏形に比べて安定感がある分、もう動かせない事実を突き付けられているという感じがします。
29~33小節目にわたってキープされるベースの「ラ」の音も、絶えず心の底に横たわる悲しみを表しているかのよう。
特に31小節目の後半、左手の「ラレファ」の和音と右手「♯ソ」がぶつかることによって生まれる響きが印象的で、胸が締め付けられるようです。
33小節目では右手のメロティーが1オクターブ高い音域に飛び、左手が別の調の和音を奏でます(和声学的には「借用和音」と言って、次の「レファラ」の和音に行くための、ニ短調の属七の和音が使われています)。
しかし、感情の高ぶりは一瞬のこと。再び悲しみに沈みます。
よく見るとこのCメロだけ、リピート(繰り返し)記号が付いているんですね(レッスンでは省略して弾くことが多いかもしれませんが)。
このこみ上げる悲しみは、1回では収まりがつかない!という心の叫びが聞こえてくるようです。
そして、王様は去っていく(Coda:45~56小節目)
45小節目からは、Coda(終結部)に入り、再びイントロのモチーフが登場。
左手による八分音符と四分音符のリズムでドミソの和音を転回します。
しかし、イントロと異なるのは、ソシレの和音の時に、Aメロ右手のモチーフが現れること。
イントロ4小節のモチーフを2回繰り返した後、さらに最後の小節の部分だけを2回反復。この時、f(フォルテ)→mf(メゾフォルテ)→p(ピアノ)と段階的に減じています。
このように段階的に強弱を付けることを「テラス式」と言います。
また、左手の和音に注目してください。ソ-レ→ミ-ドという和音の動き。そうです、ホルン5度です。ここに、Aメロの左手モチーフも現れます。
最後は両手によるドミソの和音&八分音符と四分音符のリズムで、pp(ピアニッシモ)及びrallent.(=rallentando:ラレンタンド、だんだん遅く)。
王様の集団は狩を終えて帰途につき、その姿はだんだん小さくなっていく…といった様子が浮かんできます。
ブルグミュラー「狩り」(狩猟)をどう解釈する?
では、最後にブルグミュラー「狩り」の曲をどう解釈するかについて、ひとつの見方を提示して締めとしたいと思います。
そもそも、「狩り」は王様や貴族の娯楽だったわけですから、楽しんでやっているはずです。
しかしながら、この「狩り」の曲には、時折「短調」が差し挟まれます。
「短調」と言えば、明るいというよりは悲しげな雰囲気・・・。
以前は、狩られる動物側の心情かな、と思っていたこともありました。
B部分は、追われて必死で逃げる動物たち。C部分は、ついに捕まり、殺されてしまった…残された親や子の悲しみ。
ただ、この解釈だとあまりにもエモーショナル過ぎます。
ここで別の解釈として、この「狩り」は、もしかしたら王族の狩りに随行している従者の視点と捉えることができるのではないでしょうか?
親が、あるいは妻が、子どもが、恋人が、重篤な状況にある。そばに付いていてあげたい。
しかし、王様から狩のお供をするよう、呼び出されてしまった。立場上、断ることはできない。
周りの楽しげな雰囲気を壊さないよう、努めて合わせようとするものの、ふとよぎる不安、心配、焦り、悲しみ、嘆き…。
皆さんだったらどのようなストーリーを紡ぎますか?
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