アリア「ゴルトベルク変奏曲」より

【慰めの音楽】J.S.バッハ『ゴルトベルク変奏曲』のアリアについて解説

「ゴルトベルク変奏曲」のアリアについて解説

東日本大震災や新型コロナウイルスの流行など、世の中には暗いニュースが絶えません。

そんな時に心を慰めてくれる音楽のひとつが、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」のアリアでしょう。

今回は、ゴルトベルク変奏曲のアリアについて、作曲技法やタイトルにまつわるエピソードなどを交えながら、わかりやすく解説していきます。

J.S.バッハ「ゴルトベルク変奏曲」のアリアを理解するために

まずは、「ゴルトベルク変奏曲」のアリアについて理解するための前提知識や、作曲された時代背景などについて解説していきます。

ゴルトベルク変奏曲の本来の題名を訳すと「二段鍵盤のチェンバロのためのアリアと種々の変奏から成るクラヴィーア練習曲」

今回ご紹介する曲は、J.S.バッハの「ゴルトベルク変奏曲」という名称で親しまれています。

しかしながら、実はこの曲、バッハが作曲した時から「ゴルトベルク変奏曲」と題していたわけではないのです・・・。では、もともとはどのようなタイトルだったのでしょうか?

バッハ自身は、実は以下のような長いタイトルをこの曲につけています。

『ニ段鍵盤のチェンバロのためのアリアと種々の変奏から成るクラヴィーア練習曲』(Clavier Ubung bestehend in einer ARIA mit verschiedenen Veraenderungen vors Clavicimbal mit 2 Manualen)

このタイトルどおり、ゴルトベルク変奏曲はもともと、アリアをテーマとして30の変奏が続き、再びアリアに戻って締める、という構成になっています。

最初から最後まで全曲を演奏すると40~60分弱ほどの演奏時間にもなります。

全体としての変奏の展開も見事なのですが、テーマとなるアリア自体が大変美しいため、このアリアだけで演奏されることもしばしばです。

アリアを理解するためのバッソ・オスティナート(basso ostinato)とは?

ゴルトベルク変奏曲のアリアを理解するために、バッハの時代の作曲技法である「バッソ・オスティナート(basso ostinato)」について触れておきたいと思います。

そもそも、「アリア」とはどのようなものなのでしょうか?Wikipediaでは、アリアは以下のように説明されています。

「叙情的、旋律的な特徴の強い独唱曲で、オペラ、オラトリオ、カンタータなどの中に含まれるものを指す。
――Wikipedia「アリア」より引用

つまり、アリアとは、オペラ・オラトリオ・カンタータなどの歌曲中に登場する抒情的な独唱部分のことを指すのです。

そして、このゴルトベルク変奏曲のアリアも、豊かに装飾されたその旋律がとても印象的です。

しかしながら、実は、この曲のテーマとなっているのはその旋律ではなく、左手のバスの音なのです。

ゴルトベルク変奏曲のアリアでは、低音を特定のリズムパターンとともに繰り返し、そのたびに上の旋律が変化していくという技法が用いられています。

このような、同じパターンのバス声部が繰り返される技法は、「バッソ・オスティナート(basso ostinato)」と呼ばれます。

ルネッサンス後期からバロック時代にかけて、バッソ・オスティナートに基づいて作曲や即興を行うことが流行し、このような技法で書かれた器楽・独奏曲を「パッサカリア」「シャコンヌ」と呼ぶようになりました。

ゴルトベルク変奏曲のアリアは全部で32小節ありますが、最初の8小節のバスは、まさしくパッサカリアやシャコンヌで使われる典型的な動きです。

「ゴルトベルク変奏曲」の名前の由来は?

「ゴルトベルク変奏曲」というタイトルはすっかり定着していますが、実はこの名称は通称であり、原題は全然違います。

ゴルトベルクとは、バッハの弟子だった人物の名前で、カイザーリンク伯爵に鍵盤奏者として仕えていました。

ゴルトベルクは伯爵のために、夜にチェンバロを演奏するのが常としていました。

そしてある日、伯爵は「穏やかで、いくらか快活な性質を持ち、眠れぬ夜に気分の晴れるようなクラヴィーア曲」を希望します。(※注:クラヴィーア=ドイツ語で鍵盤楽器を指す言葉)

伯爵の希望を受けて、バッハによって書かれたのがこの曲(=ゴルトベルク変奏曲)です。

伯爵はこの曲を大変気に入って「私の変奏曲」と呼び、しばしばゴルトベルクに演奏するようにリクエストした…というエピソードが伝わっています。

このエピソードが真実であるのなら、本来は「ゴルトベルク変奏曲」ではなく「カイザーリンク変奏曲」と呼ぶべきかもしれません。笑

ゴルトベルク変奏曲で眠れるの?穏やかで、いくらか快活で、気分の晴れるような…

上記のゴルトベルク変奏曲成立のエピソードから、「ゴルトベルク変奏曲を聴いたら本当に眠れるの?」なんて声も聞かれます。

しかしながら、エピソードをよく読むと、伯爵は必ずしも眠りを求めているのではなく、「眠れぬ夜に気分の晴れるような」と語っています。

そういう意味で、このゴルトベルク変奏曲は伯爵の要望にぴったりと適っているのではないでしょうか。

最初のアリアに続く第1変奏を聴くと、躍動感にあふれ、わくわくした気持ちになれます。

その一方で、アリアには静かな悲しみをたたえた明るさを感じます。

特に、さまざまな変奏を経て最後に奏でられるアリア・ダ・カーポは、最初のアリアとはまた違って聴こえてくるようです。

ゴルトベルク変奏曲はこんなところでも登場する?使用された映画・アニメまとめ

以上のようなユニークなエピソードを持つ「ゴルトベルク変奏曲」・・・実は映画やアニメなどいろいろなところで使われています。

有名どころでは、名作映画『羊たちの沈黙』(1991年公開)でしょうか。

ここで登場するハンニバル・レクター博士はインテリ医師でクラシック音楽をこよなく愛するという設定なんですが、監獄に囚われている時に、情報提供の見返りとして「バッハの『ゴルトベルク変奏曲BWV988』を差し入れろ」って要求するんですよね。

しかも、グレン・グールドの演奏する81年版を、という細かさ(グレン・グールドの『ゴルトベルク変奏曲』の録音は55年版と81年版の2種類があり、どちらも名盤です)。

そして、その曲を聴きながら看守を惨殺し、脱出するというシーン…天上的な音楽とのギャップがよけいに不気味です(ただし、映画で使われている演奏はグレン・グールドの演奏ではないという話)。

ちなみに、続編『ハンニバル』では、冒頭からこの『ゴルトベルク変奏曲』が流れます。

細田守監督のアニメ映画『時をかける少女』(2006年公開)の中でも使われています。

女子高生・真琴のタイムリープというストーリーが、繰り返しつつも変化していく変奏曲にリンクしている?オリジナル録音のようです。

それから、是枝裕和監督『そして父になる』(2013年公開)でも。こちらではグールドの1981年録音が使われています。

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