インヴェンションとシンフォニア

バッハ「インヴェンションとシンフォニア」とは?特徴と練習方法を解説

インヴェンションとシンフォニアのイメージ画像

ピアノを習っていると、ある程度進んだところでJ.S.バッハの「インヴェンションとシンフォニア」(BWV772~801)のテキストに入るのが一般的です。

特徴は、「インヴェンション」が二声部の小曲、「シンフォニア」が三声部の小曲で、それぞれ15曲ずつあります。

「インヴェンションとシンフォニア」を初めて弾いたときに、「弾きにくい」という印象を持つ人は少なくありません。ここで苦手意識を持ってしまう人もいます。どうして弾きにくいと感じるのでしょうか。

「インヴェンションとシンフォニア」を弾きにくく感じる理由は、複数の声部がそれぞれ対等に書かれているからです

右手で弾いた旋律と同じ形を模倣するように、左手でも追随して出てきます。しかもそれぞれが有機的に絡み合っています。

一人二役、あるいは三役やるようなもので、しっかり整理できていないと混乱しやすいのです。

そんな、複数の声部を同時に弾きこなさなければならない「インヴェンションとシンフォニア」の特徴と、効果的な練習方法についてご紹介します。

バッハ「インヴェンションとシンフォニア」とは?何のためにつくられたの?

まずは、バッハが「インヴェンションとシンフォニア」を作った目的について確認しておきましょう。

バッハは、「クラヴィーアの愛好者、特に学習熱心な者」に向けて、以下のように書いています。

二つの声部をはっきりと弾けるようにするだけでなく、上達した時には三つのオブリガート声部を正しく、満足のいくように処理することができるように。

優れたインヴェンション(楽想)を取得するにとどまらず、それをうまく発展させられるように。

演奏時にあたっては、よく歌う奏法を身につけ、作曲を学ぶための基礎を養うように。

バッハの時代には、演奏だけではなく、作曲もできなければ音楽家と認められませんでした。

そのため、インヴェンションとシンフォニアを練習することで、作曲の土台となる部分を学べるように意図してつくられているのです。

つまり、いずれ作曲の勉強をすることを念頭に置いてこれらの曲が書かれていると言えるのです。

インベンションとシンフォニアの特徴は?一つひとつのモチーフの限りない発展

「インヴェンションとシンフォニア」の特筆すべき特徴として、数少ないモチーフを様々に変化させて、1つの楽曲にまで発展させている点が挙げられます

モチーフとは、楽曲や楽章などに続けて登場する音楽的単位であり、楽曲の根幹となるメロディをつくる音符や休符の最小のまとまりのことです。

インヴェンション第1番ハ長調を例に取りましょう。

ほぼ順次進行で上下する8つの十六分音符が連なり、続いて八分音符が4つ登場します。これらのような音符や休符のまとまりのことをモチーフと言います。

インヴェンション第1番の曲は、この2つのモチーフだけで出来ています。まったく同じ形だけではなく、逆さまの音型など、バリエーションは様々です

まるでバッハが「これだけの材料(モチーフ)でここまで発展させることが出来るんだよ」とお手本をみせてくれているかのようです。

インヴェンションの練習方法

「インヴェンションとシンフォニア」の特徴を確認したところで、まずは「インヴェンション」の練習の方法について確認していきましょう。

バッハはインヴェンションについて、「二つの声部をはっきりと弾けるように」と書いています

したがって、まずは右手と左手の旋律が対等に演奏できるように練習しなければなりません

往々にして左手は右手ほどうまく演奏できないことが多いですから、左手は右手の2倍も3倍も練習する必要があります

それぞれの旋律をしっかり把握できたら、両手で合わせます。そのときに、どちらかの旋律だけに気を取られることなく、両方の旋律を同時に聴き分けて弾けるよう練習する必要があります

曲全体の構成を理解して弾くことも大切です。インヴェンションの多くの曲は、三部に分かれています。

第一部では右手のモチーフを左手が追いかけて、近親調に転調して終わります。

第二部では転調した調性でまず左手が登場し、右手が追随します。そして、次々とたたみかけるような転調が続きます。

第三部は変形モチーフで戻るというパターンが多く見られます。

それぞれの部分の終わりにはカデンツ(終止形)が出てくるので、それも意識したいところです。

一番難しいのは第二部の後半、第三部に入る前の転調が続くところです。転調が続くだけではなく、モチーフも短いスパンで折り重なるように出てきます。

シンフォニアの練習方法

インヴェンションは二声の曲でしたが、シンフォニアでは三声になります。

手は二本しかないのに三つの旋律を弾くのか?という疑問が湧いてきます。

その通りで、二本の手で三声を弾くためには、どちらかの手で二声弾かなくてはなりません

シンフォニアの練習の方法としては、高声部、中声部、低声部とを分けて練習します

中声部は右手と左手にまたがっている場合があるので、それを感じさせないようになめらかに受け渡して弾けるように練習しなければなりません

それから、高声部+低声部、高声部+中声部、中声部+低声部というように、二声部ずつ組み合わせて練習します

それぞれの声部の絡みを確認して、それから三声部を合わせるという手順を踏むと理解しやすいでしょう。

インヴェンションとシンフォニアの調性・曲順について

インヴェンションでもシンフォニアでも、曲の並びは、ハ長調、ハ短調、ニ長調、ニ短調、変ホ長調、ホ長調、ホ短調、ヘ長調、ヘ短調、ト長調、ト短調、イ長調、イ短調、変ロ長調、ロ短調の順です

つまり、よく使われる調性を下から順に並べている形です。しかしながら、バッハのオリジナルのテキストでは、曲順が異なります。

インヴェンションとシンフォニアの原型は、バッハが長男のために書いたテキスト「フリーデマン・バッハの音楽帳」にあります。

「フリーデマン・バッハの音楽帳」の並びは、ハ長調、ニ長調、ホ短調、ヘ長調、ト長調、イ短調、ロ短調、変ロ長調、イ長調、ト短調、ヘ短調、ホ長調、変ホ長調、ニ長調、ハ短調の順です。

こちらのほうが難易度順としては理にかなっているように思えます。

楽譜の原典版と校訂版について

「インヴェンションとシンフォニア」の楽譜は、様々な種類のものが出版されていますが、大きく分けて原典版と校訂版があります。

原典版はバッハの自筆譜に基づいた楽譜で、テンポの指示や強弱記号、指使いなどが書かれていません。

もちろん曲想をつけないというわけではなく、それは自分で考えて弾かなければいけないということです。

一方で、校訂版には、校訂者の解釈によるテンポ記号や強弱記号、指使い、スラーなどが書き込まれています。

どちらかの使用を推奨するとすれば、やはり原典版の方です先入観なく、楽譜を見ることが大事だと思うからです

ただ、慣れていない人にはどのように弾いたらよいのかわからないこともあるでしょう。弾き方や練習方法の資料として校訂版を参考にするのはアリだと思います。

原典版で有名なところでは、ウィーン原典版やヘンレー版があります。カワイ出版の「インヴェンションとシンフォニア(解説付き)」も解説がくわしくてお勧めです。

バッハからの宿題|理論的思考・表現

バッハの曲を漠然と弾いていると、ぐしゃぐしゃになって、弾くのが困難に感じます。

しかしながら、きちんと各声部を聴き分け、構成を理解することで、漠然と弾く場合よりずいぶんと弾きやすくなります。

つまり、「インヴェンションとシンフォニア」も、理論的思考で分析することが求められるというわけです。

その意味が腑に落ちたとき、まるでパズルがピタッとはまったかのように、演奏に結びつくでしょう。バッハの音楽にはそのような面白さがありますので、ぜひ体感できるように練習を重ねていってください。

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